イエス、その生涯とメッセージ:弟子の足を洗う(パート2)

著者: ピーター・アムステルダム

5月 25, 2021

[Jesus—His Life and Message: Washing the Disciples' Feet (Part 2)]

May 25, 2021

前回の記事[1] では、イエスが弟子たちの足を洗っておられる時に、使徒ペテロが自分の足を洗っていただくことに反対したという話を扱いました。ペテロへの答えの中で、イエスはこう言われました。「あなたがたはきれいなのだ。しかし、みんながそうなのではない。」 [2] つまり、弟子のうち一人がきれいではないということです。

この章の続きを見てみましょう。

こうして彼らの足を洗ってから、上着をつけ、ふたたび席にもどって、彼らに言われた、「わたしがあなたがたにしたことがわかるか。」 [3]

イエスは、ご自分を裏切ろうとしているユダの足も含め、弟子たちの足をみな洗い終わると、先に脱いであった上着を着て、ふたたび席に戻られました。そして、弟子たちに、イエスが何をしたのか分かるかと尋ねたのですが、イエスはすでにその答えを知っておられ、それは、彼らには分からないということです。少し前に、イエスはこう話しておられます。「わたしのしていることは今あなたにはわからないが、あとでわかるようになるだろう。」 [4]

イエスは続けて、こう言われました。

「あなたがたはわたしを教師、また主と呼んでいる。そう言うのは正しい。わたしはそのとおりである。しかし、主であり、また教師であるわたしが、あなたがたの足を洗ったからには、あなたがたもまた、互に足を洗い合うべきである。」 [5]

イエスは、弟子たちがご自分を呼ぶ時の「教師」や「主」という言葉に言及されました。「教師」とは「ラビ」のことであり、ユダヤ教指導者に対する敬称です。人を「主」と呼ぶのは、それよりもはるかにまれなことで、それは相手に対して深い尊敬を抱いていることを表す言葉です。イエスは、弟子たちがご自分に対してそのような敬称を使うのはいいことだとした上で、そのように威厳と栄誉のある者が彼らの足を洗ったからには、彼らもまた、喜んで互いの足を洗うべきだと言われました。

「わたしがあなたがたにしたとおりに、あなたがたもするように、わたしは手本を示したのだ。」 [6]

聖書解説者たちは、イエスが文字どおり、信者たちは互いの足を洗うべきだという意味で言われたのかどうかを論じています。もしそういう意味であれば、洗足を教会の礼拝や交わりの一部とすべきではないか、あるいは、イエスはただ、身を低くして僕のように互いに仕えることをいとわない手本を示しておられたのか、ということです。ほとんどの解説者たちが一致しているのは、洗足は具体的な命令ではなく、一つの例として与えられたということです。

イエスが言っておられたのは、彼らの主(主人)であるイエスが身を低くして、僕の役割をされたからには、弟子たちも喜んで同じことをすべきだということのようです。イエスは、互いの足を洗うという特定の行動を取るよう弟子たちに命じられたわけではなく、身を低くして他に仕えるという態度を示しておられました。私たちクリスチャンが、たとえ気の進まないことや身を低くさせられることであっても、それをすることによって互いに仕えるべきだということを、手本で示されたのでした。

使徒パウロも、同様のことを書いています。

キリスト・イエスのうちにあるこの思いを、あなたがたの間でも抱きなさい。キリストは、神の御姿であられるのに、神としてのあり方を捨てられないとは考えず、ご自分を空しくして、しもべの姿をとり、人間と同じようになられました。人としての姿をもって現れ、自らを低くして、死にまで、それも十字架の死にまで従われました。それゆえ神は、この方を高く上げて、すべての名にまさる名を与えられました。それは、イエスの名によって、天にあるもの、地にあるもの、地の下にあるもののすべてが膝をかがめ、すべての舌が「イエス・キリストは主です」と告白して、父なる神に栄光を帰するためです。[7]

イエスは、それからこう言われました。

「よくよくあなたがたに言っておく。僕はその主人にまさるものではなく、つかわされた者はつかわした者にまさるものではない。」 [8]

イエスは、「よくよくあなたがたに言っておく」と言うことによって、話を聞いている人たちに、これから告げることは重要なのだと知らせています。イエスは弟子たちに、彼らは僕であり使いであるのだから、自分を買いかぶることのないよう指摘されました。主人であり、彼らを遣わした方であるイエスが、そのような「卑しい」仕事をいとわずにされたのであれば、遣わされた立場の彼らが、つまらない仕事をするのは彼らの対面に関わるなどと考えるべきではないということです。

「もしこれらのことがわかっていて、それを行うなら、あなたがたはさいわいである。」 [9]

イエスは弟子たちに、彼らは今、これらのことが分かっているのだから、それを行うなら幸いだ(祝福される)と言われます。私たち信者にとって、イエスが何を求めておられるかを知るのは重要な第一歩ですが、それを実行してこそ、主の祝福をいただけるのです。

「あなたがた全部の者について、こう言っているのではない。わたしは自分が選んだ人たちを知っている。しかし、『わたしのパンを食べている者が、わたしにむかってそのかかとをあげた』とある聖書は成就されなければならない。」 [10]

イエスは、誰が自分を裏切ることになるのかを明確に理解しておられました。イエスが引用されたのは、詩篇41篇の次の言葉です。「わたしの信頼した親しい友、わたしのパンを食べた親しい友さえもわたしにそむいてくびす[かかと]をあげた。」 [11] ある人はこのように書いています。「『かかとを上げた』は、馬が蹴ろうとしてひづめを上げることから来ているメタファーであると、ほとんどの解説者が解釈しており、おそらくそのとおりでしょう。…この引用箇所の要点は、ユダの行為は人情に反するものだということです。ただの知り合いを裏切るのではなく、親しい友人を裏切っているのです。」 [12]

「そのことがまだ起らない今のうちに、あなたがたに言っておく。いよいよ事が起ったとき、わたしがそれであることを、あなたがたが信じるためである。」 [13]

イエスは弟子たちを、これから起こることに備えておられますが、それは、裏切られた時に弟子たちの信仰が損なわれることを望まなかったからです。これから何が起こるかをあらかじめ知らせておくことで、それはすべて父の計画の一部なのだと教えておられたのです。

「よくよくあなたがたに言っておく。わたしがつかわす者を受けいれる者は、わたしを受けいれるのである。わたしを受けいれる者は、わたしをつかわされたかたを、受けいれるのである。」 [14]

16節の時と同様、イエスはここでも「よくよく言っておく」という表現をされました。そして、ご自分の使者たちの尊厳について語られました。使者たちを受け入れる人は、彼らが伝えるメッセージを受け入れているのであり、彼らを遣わした者(イエス)を受け入れています。さらに、彼らを遣わした者を受け入れることは、父を受け入れていることにもなります。

イエスがこれらのことを言われた後、その心が騒ぎ、おごそかに言われた、「よくよくあなたがたに言っておく。あなたがたのうちのひとりが、わたしを裏切ろうとしている。」 弟子たちはだれのことを言われたのか察しかねて、互に顔を見合わせた。[15]

イエスは状況を掌握しており、これから何が起こるかを知っておられましたが、それでも、心が動きました。イエスが、自分を裏切る者に言及されたのは、これが3度目です。[16] 弟子たちは、イエスが誰のことを話しているのか見当もつかず、互いに顔を見合わせました。

(続く)


注:

聖書の言葉は、特に明記されていない場合、日本聖書協会の口語訳聖書から引用されています。


参考文献

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1弟子の足を洗う(パート1)

2 ヨハネ 13:10.

3 ヨハネ 13:12.

4 ヨハネ 13:7.

5 ヨハネ 13:13–14.

6 ヨハネ 13:15.

7 ピリピ 2:5–11.〈新改訳2017〉

8 ヨハネ 13:16.

9 ヨハネ 13:17.

10 ヨハネ 13:18.

11 詩篇 41:9.

12 Morris, The Gospel According to John, 552.

13 ヨハネ 13:19.

14 ヨハネ 13:20.

15 ヨハネ 13:21–22.

16 ヨハネ 13:10, 18.

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