著者: ピーター・アムステルダム
9月 13, 2022
ヨハネの福音書の最後の章は、復活のキリストがガリラヤに現れる場面で始まります。
そののち、イエスはテベリヤの海べで、ご自身をまた弟子たちにあらわされた。そのあらわされた次第は、こうである。[1]
テベリヤの海は、一般にガリラヤ湖と呼ばれる湖で、イスラエル北部にあります。イエスが最後に弟子たちと共にいて、傷跡に指を入れるようトマスに言われてから[2] どれほど経っているのかは、記されていません。ただ、弟子たちがエルサレムを離れて北のガリラヤ地方へ行き、そこでイエスが彼らに姿を見せられたということなので、しばらく経ってからのことなのは確かです。
シモン・ペテロが、デドモと呼ばれているトマス、ガリラヤのカナのナタナエル、ゼベダイの子らや、ほかのふたりの弟子たちと一緒にいた時のことである。シモン・ペテロは彼らに「わたしは漁に行くのだ」と言うと、彼らは「わたしたちも一緒に行こう」と言った。彼らは出て行って舟に乗った。しかし、その夜はなんの獲物もなかった。[3]
弟子たち(少なくとも7人)がガリラヤで一緒にいました。ペテロ、トマス、ナタナエル、ヤコブとヨハネ(ゼベダイの子ら)、そして、名前の明かされていない弟子が2人です。
ペテロは漁に行くことにしましたが、それは、彼がイエスと出会う前にしていた仕事です。そこにいた弟子たちも、ペテロと一緒にに行くことにしました。ペテロたちが漁師に戻ろうとしている気配はありません。ペテロがただ思いついて、他の人たちもそれに同意しただけなのでしょう。というわけで、弟子たちは出かけましたが、どこから出発したのかは記されていません。舟に乗ったとありますが、誰の舟だったのかも記されていません。ただ、夜通し漁をしても、「その夜はなんの獲物もなかった」と書かれています。
夜が明けたころ、イエスが岸に立っておられた。しかし弟子たちはそれがイエスだとは知らなかった。イエスは彼らに言われた、「子たちよ、何か食べるものがあるか。」 彼らは「ありません」と答えた。[4]
夜明け頃、イエスは湖の岸辺に立っておられました。どこから来られたのかは書かれていませんが、おそらく、しばらく前に、弟子たちが戸をみな閉めて家の中にいた時、そこにイエスが現れたのと同じように、この時もいきなり姿を現されたのでしょう。[5] 弟子たちは、それがイエスだとは気づきませんでした。この福音書の少し前のほうで、マグダラのマリヤがイエスに気づかなかったのと同様です。[6] また、エマオへの途上にあった弟子たちも、一緒に歩いていた人がイエスであったことに気づきませんでした。[7] ここでは、イエスが、何か食べるもの(魚)はあるかと尋ね、弟子たちが「ありません」と答えています。一晩中漁をして、一匹の魚もとれなかったのは、かなりがっかりさせられることだったでしょう。
すると、イエスは彼らに言われた、「舟の右の方に網をおろして見なさい。そうすれば、何かとれるだろう。」 彼らは網をおろすと、魚が多くとれたので、それを引き上げることができなかった。[8]
イエスが岸にいて、弟子たちは少し離れた水上にいたので、おそらくイエスは大声で、舟の反対側に網をおろすよう言われたことでしょう。弟子たちが言われたとおりにすると、とれた魚の量があまりにも多かったので、舟に引き上げることができませんでした。
イエスの愛しておられた弟子が、ペテロに「あれは主だ」と言った。シモン・ペテロは主であると聞いて、裸になっていたため、上着をまとって海にとびこんだ。[9]
イエスの愛しておられた弟子とは、使徒ヨハネのことのようです。ヨハネはイエスに気づいたので、ペテロに、大声を上げて彼らに魚のことを尋ね、舟の右側に網をおろすよう言われたのはイエスだと言いました。それを聞いたペテロは、「裸になっていたため」、上着をまとったとあります。それは必ずしも、ペテロが何も身に着けずに仕事をしていたという意味ではありません。ある人は、次のように説明しています。「しかし、それが果たして、英語の訳語から受ける印象のように、何も身に着けていなかったという意味かどうかは分かりません。標準的な辞書には、この言葉が『上着なしに』や『下着姿で』という意味で使われている例文が掲載されています。おそらくここでは、通常覆われている箇所の一部が露出しているという意味であり、ペテロは裸というよりも、ただ上着を脱いで仕事をしていたということでしょう。つまり、作業しやすいように、腰布姿だった、あるいは、袖なしの衣だけ着けていたという意味に取れます。」 [10]
しかし、ほかの弟子たちは舟に乗ったまま、魚のはいっている網を引きながら帰って行った。陸からはあまり遠くない五十間ほどの所にいたからである。[11]
ペテロだけ舟を降りて、岸まで泳いでいき、他の弟子たちは舟に乗ったまま、大量の魚を岸まで運びました。彼らがいたのは、陸から50間(他の翻訳聖書では200ペキスなど)の所とありますが、それは94メートルほどの距離です。魚でいっぱいの網を舟に引き込もうとすると、転覆したり沈んだりする恐れがあるので、弟子たちはその代わりに岸まで網を引いて戻りました。
彼らが陸に上って見ると、炭火がおこしてあって、その上に魚がのせてあり、またそこにパンがあった。イエスは彼らに言われた、「今とった魚を少し持ってきなさい。」 [12]
舟から降りてみると、炭火がおこしてあり、その上で魚が焼かれていて、パンものせられていました。炭火の上にあった魚は、そこにいた弟子たちが食べるには足りなかったようで、イエスは彼らに、今とった魚を少し持ってくるよう言われました。
シモン・ペテロが行って、網を陸へ引き上げると、百五十三びきの大きな魚でいっぱいになっていた。そんなに多かったが、網はさけないでいた。[13]
とったばかりの魚を持ってくるよう言われたので、舟から飛び降りて泳いで岸まで来ていたペテロは、魚でいっぱいの網を陸へ引き上げる作業を指揮するために、舟に戻ったのでしょう。とれた魚は大きく、その数は153匹であったと書かれています。初期の頃、何人ものキリスト教教師が、153という数字の意義について、さまざまな解釈を与えました。たとえば、当時とれた魚の種類である、といったものです。しかし、おそらく、とれた魚の実際の数だったと思われます。魚が数えられたのは、漁をしていた7人かそれ以上の弟子たちの間で均等に分けるためだったのでしょう。
イエスは彼らに言われた、「さあ、朝の食事をしなさい。」 弟子たちは、主であることがわかっていたので、だれも「あなたはどなたですか」と進んで尋ねる者がなかった。[14]
イエスは弟子たちに、一緒に朝食をとろうと誘われました。彼らの反応は記されていませんが、ただ、彼らはそれが主であると分かっていたので、誰も「あなたはどなたですか」と尋ねなかったとあります。[15]
イエスはそこにきて、パンをとり彼らに与え、また魚も同じようにされた。[16]
イエスは弟子たちにパンと魚を分け与え、食事が始まりました。それ以後のイエスの言葉が記録されているのは、食事が終わってからのことですが、それは次の記事で扱います。
福音書の著者は、こう告げています。
イエスが死人の中からよみがえったのち、弟子たちにあらわれたのは、これで既に三度目である。[17]
彼は、イエスが復活した後、弟子たちに現れたのは、これで3度目だと言います。それはおそらく、11弟子の全員か、少なくともそのほとんどに会った時のことを言っているのでしょう。(それ以外にも、マグダラのマリヤなどに現れています。) イエスは、これまでトマスがいない時、そしてトマスがいる時に彼らに現れており、これで3度目だということです。
(続く)
注:
聖書の言葉は、特に明記されていない場合、日本聖書協会の口語訳聖書から引用されています。
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1 ヨハネ 21:1.
2 ヨハネ 20:27–28.
3 ヨハネ 21:2–3.
4 ヨハネ 21:4–5.
5 参照:ヨハネ 20:19, 26.
6 ヨハネ 20:14.
7 参照:ルカ 24:15–16.
8 ヨハネ 21:6.
9 ヨハネ 21:7.
10 Morris, The Gospel According to John, 763.
11 ヨハネ 21:8.
12 ヨハネ 21:9–10.
13 ヨハネ 21:11.
14 ヨハネ 21:12.
15 ヨハネ 21:7.
16 ヨハネ 21:13.
17 ヨハネ 21:14.
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