イエス、その生涯とメッセージ:ヨハネによる福音書の結び(パート2)

9月 27, 2022

著者:ピーター・アムステルダム

[Jesus—His Life and Message: The End of the Gospel of John (Part 2)]

September 13, 2022

前回は、ヨハネによる福音書から、弟子の何人かがガリラヤ湖としても知られるテベリヤの海へ漁に出た話を読みました。彼らは夜通し漁をしましたが、何もとれません。岸にいたイエスから、舟の反対側に網をおろしてみるよう言われたので、彼らがそうすると、153匹もの魚が網にかかりました。弟子たちが岸に上がると、イエスは食事としてパンと魚を彼らに与えられました。ここで、ヨハネの福音書の焦点は使徒ペテロに移り、「イエスの愛しておられた弟子」についても触れられています。

彼らが食事をすませると、イエスはシモン・ペテロに言われた、「ヨハネの子シモンよ、あなたはこの人たちが愛する以上に、わたしを愛するか。」 ペテロは言った、「主よ、そうです。わたしがあなたを愛することは、あなたがご存じです。」 イエスは彼に「わたしの小羊を養いなさい」と言われた。またもう一度彼に言われた、「ヨハネの子シモンよ、わたしを愛するか。」 彼はイエスに言った、「主よ、そうです。わたしがあなたを愛することは、あなたがご存じです。」 イエスは彼に言われた、「わたしの羊を飼いなさい。」 イエスは三度目に言われた、「ヨハネの子シモンよ、わたしを愛するか。」 ペテロは「わたしを愛するか」とイエスが三度も言われたので、心をいためてイエスに言った、「主よ、あなたはすべてをご存じです。わたしがあなたを愛していることは、おわかりになっています。」 イエスは彼に言われた、「わたしの羊を養いなさい。」 [1]

イエスはあらたまった感じで、3回も、「ヨハネの子シモンよ」と彼に話しかけられました。イエスはこの質問を3回することによって、その重要性を強調されたのです。1回目は、「あなたはこの人たちが愛する以上に、わたしを愛するか」 と言われました。「この人たちが」と訳された部分は、原文では明確ではありません。「この魚を」という意味にも取れます。しかし、もっと可能性があるのは、「この人たちが」愛する以上に、あるいは「この人たちを」愛する以上に、イエスを愛するか、尋ねられたのでしょう。ペテロはそれに対して、「はい、他の弟子たちが愛する以上にあなたを愛しています」、または、「いいえ、他の弟子たちが愛するほどとは言えません」という答え方もできたことでしょう。しかし、ペテロは他の弟子たちと比べることなく、その都度、賢明に、かつシンプルに、自分がイエスを愛していることを告げました。

イエスがペテロに、「わたしの羊を飼いなさい」と言われた際に使われた動詞には、ただ飼うこと以上の意味があります。この場合は、「羊飼いの職責を果たす」という意味だと理解されています。ペテロは、教会を牧すという任務に従事するよう命じられたのです。[2] イエスが「私を愛するか」と3度目にペテロに尋ねられた時、ペテロは心を痛めました。イエスを愛するかと3度も尋ねられたので、悲しくなったのです。彼は、最初の2回と同じ答え方ではなく、イエスがすべてをご存知であり、人の心の中もご存知なので、ペテロがイエスを愛していることはお分かりになっていると言いました。

この出来事は、ペテロが指導者としての地位に復帰したことを示しています。イエスが死なれる前、ペテロは主を3回否定しました。[3] ここでは、イエスを愛していることを3回断言しています。そしてイエスはペテロに、主の羊の世話をするよう、3回言われました。過去の過ちにもかかわらず、イエスはペテロを信頼される地位に再びつけられたのです。

「よくよくあなたに言っておく。あなたが若かった時には、自分で帯をしめて、思いのままに歩きまわっていた。しかし年をとってからは、自分の手をのばすことになろう。そして、ほかの人があなたに帯を結びつけ、行きたくない所へ連れて行くであろう。」 これは、ペテロがどんな死に方で、神の栄光をあらわすかを示すために、お話しになったのである。こう話してから、「わたしに従ってきなさい」と言われた。[4]

イエスは、羊の面倒を見るようペテロに命じた後、「よくよくあなたに言っておく」との前置きをした上で、予言をされました。まずペテロがイエスに従ってくる前の生活に言及することで、彼の過去と現在を対比しておられます。彼は若かった頃、自分で衣に帯を締め、行きたいところならどこにでも行きました。しかし、年を取ってからは、状況は異なるでしょう。この予言はペテロの死に関するものであり、その死に方によって、ペテロは神の栄光を表すのだと説明されています。「自分の手をのばす」という漠然とした言い方がされていますが、それは、ペテロが十字架につけられることへの言及であるというのが、解説者たちの一般的な解釈です。イエスはペテロに、昔、若い時は自由にあちこちへ行けたけれど、いずれ年を取ってからは、もう自由にそうすることはできなくなると言われました。ペテロは、一般的に、両手を広げた(手を伸ばした)状態で逆さまに十字架につけられたと考えられています。

ペテロはふり返ると、イエスの愛しておられた弟子がついて来るのを見た。この弟子は、あの夕食のときイエスの胸近くに寄りかかって、「主よ、あなたを裏切る者は、だれなのですか」と尋ねた人である。ペテロはこの弟子を見て、イエスに言った、「主よ、この人はどうなのですか。」 イエスは彼に言われた、「たとい、わたしの来る時まで彼が生き残っていることを、わたしが望んだとしても、あなたにはなんの係わりがあるか。あなたは、わたしに従ってきなさい。」 [5]

ペテロが自分の地位を回復した後、振り返ると、「愛弟子」がついて来るのを見ました。それは一般的に、使徒ヨハネのことだと考えられています。ここでヨハネは、イエスが誰に裏切られるのかと尋ねた弟子だと説明されています。ペテロは、いつものように率直に、この弟子の将来について尋ねました。イエスは、ヨハネの将来はペテロには関係ないからという理由で、ペテロの質問に答えなかったようです。そうする代わりに、イエスは先に告げたことを繰り返して、「わたしに従ってきなさい」と命じられました。

こういうわけで、この弟子は死ぬことがないといううわさが、兄弟たちの間にひろまった。しかし、イエスは彼が死ぬことはないと言われたのではなく、ただ「たとい、わたしの来る時まで彼が生き残っていることを、わたしが望んだとしても、あなたにはなんの係わりがあるか」と言われただけである。[6]

この福音書の著者は、使徒ヨハネは死ぬことがなく、イエスが戻ってこられるまで生き続けるという思い違いが信者の間に広まったことを取り上げています。「彼が死ぬことはない」とイエスが言われた事実はないので、その誤解を正そうとしていました。イエスは、たとえヨハネがイエスの戻る時まで生き残ったとしても、ペテロには何の係わりがあるのかと尋ねただけです。

これらの事についてあかしをし、またこれらの事を書いたのは、この弟子である。そして彼のあかしが真実であることを、わたしたちは知っている。[7]

「イエスの愛しておられた」弟子がこの福音書を書いたことが、ここで明かされています。起こったことについて証言し、これらのことを書き記しているのは、この弟子だとあり、それは使徒ヨハネであることが暗示されています。この「あかしが真実であることを」知っているという「わたしたち」が誰であるのかは、書かれていません。ある著者は、このように語っています。「この『わたしたち』という言葉は、重く受け止められるべきです。使徒による教会が存在しており、その存在自体がこの使徒の証言を確認し、肯定しているのです。」 [8]

イエスのなさったことは、このほかにまだ数多くある。もしいちいち書きつけるならば、世界もその書かれた文書を収めきれないであろうと思う。[9]

イエスの数多くの言動の中から、著者が選び抜いてまとめたに過ぎないと念を押す言葉で、この福音書は締めくくられています。彼は、イエスの言動について知っていることをすべて書き記したわけではありません。イエスについてのすべてを書きつけるとしたら、世界もその書かれた書物を収めきれないと、彼は言います。このように、ヨハネは、イエスの言動について私たちは多くのことを聞かされているけれど、私たちの知識は限られていることを指摘しているのです。イエスは生きている間に、ここに書き記されていることよりはるかに多くのことをされました。それでも、この福音書には、少し前のほうに書かれた次の目的を果たすのに必要な情報が十二分に記されているのです:「これらのことを書いたのは、あなたがたがイエスは神の子キリストであると信じるためであり、また、そう信じて、イエスの名によって命を得るためである。」 [10]

ヨハネの福音書は、これで完結となります。


注:

聖書の言葉は、特に明記されていない場合、日本聖書協会の口語訳聖書から引用されています。


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1 ヨハネ 21:15–17.

2 Morris, The Gospel According to John, 771.

3 ヨハネ 18:15–27. こちらも参照:マタイ 26:33–35, 73–75. ルカ 22:54–62. マルコ 14:69–72.

4 ヨハネ 21:18–19.

5 ヨハネ 21:20–22.

6 ヨハネ 21:23.

7 ヨハネ 21:24.

8 Morris, The Gospel According to John, 777.

9 ヨハネ 21:25.

10 ヨハネ 20:31.