ルツ物語(パート2)

11月 15, 2022

著者:ピーター・アムステルダム

[The Story of Ruth (Part 2)]

October 25, 2022

モアブで夫と2人の息子を亡くしたユダヤ人女性ナオミは、故郷であるベツレヘムに戻ることを決意しました。亡くなった息子たちのモアブ人妻オルパとルツは、ナオミが旅立った際、一緒についていきましたが、ベツレヘムに向かい始めてから、ナオミは嫁たちに、モアブに帰って、新しい夫を見つけた方がいいと言いました。嫁たちを祝福して、別れを告げたのです。オルパはモアブに帰りましたが、ルツはそうしようとせず、こう言いました。

「わたしはあなたの行かれる所へ行き、またあなたの宿られる所に宿ります。あなたの民はわたしの民、あなたの神はわたしの神です。あなたの死なれる所でわたしも死んで、そのかたわらに葬られます。もし死に別れでなく、わたしがあなたと別れるならば、主よ、どうぞわたしをいくえにも罰してください。」 ナオミはルツが自分と一緒に行こうと、固く決心しているのを見たので、そのうえ言うことをやめた。[1]

そしてふたりは旅をつづけて、ついにベツレヘムに着いた。彼らがベツレヘムに着いたとき、町はこぞって彼らのために騒ぎたち、女たちは言った、「これはナオミですか。」 ナオミは彼らに言った、「わたしをナオミ(楽しみ)と呼ばずに、マラ(苦しみ)と呼んでください。なぜなら全能者がわたしをひどく苦しめられたからです。わたしは出て行くときは豊かでありましたが、主はわたしをから手で帰されました。主がわたしを悩まし、全能者がわたしに災をくだされたのに、どうしてわたしをナオミと呼ぶのですか。」 こうしてナオミは、モアブの地から帰った嫁、モアブの女ルツと一緒に帰ってきて、大麦刈の初めにベツレヘムに着いた。[2]

ルツはその言葉どおりに、ナオミと一緒にベツレヘムへ行きました。彼女らがそれまでモアブのどこに住んでいたのか、正確な場所が書かれていないので、どれだけの時間をかけて、どれだけの距離を旅したのかは、分かりません。また、ずっと歩いて旅したのか、ロバが引く荷車で行ったのか、どの道を通って行ったのかも書かれていません。その経路次第で、72~144キロの旅路になります。私たちに分かっているのは、2人が旅したこと、そして、到着した時、町中の人に知られたことです。ナオミとルツが来たことは、町のうわさになりました。ナオミと夫がベツレヘムを離れてから10年経った今、ナオミだけ、モアブ人嫁と一緒に戻ってきたのです。

町の女たちは、「これはナオミですか」と尋ねました。 ナオミは、苦悩を吐き出すかのように、こう答えました。「わたしをナオミ(楽しみ)と呼ばずに、マラ(苦しみ)と呼んでください。」 ナオミはそう言いましたが、そのように悲観的な名前で呼んでほしいという彼女の要求を誰かが聞き入れたことを裏付けるものは何もありません。ナオミにとって、自分がベツレヘムに戻ったことは、希望というよりも失望の表れでした。彼女からすれば、自分は全能者にひどく苦しめられたと思えたのです。何年も前、夫と2人の息子と一緒にベツレヘムを去った時には、いくらか財産がありました。そして今、財産はほとんどなく、ただモアブ人の嫁だけを連れて帰ってきたのです。神はなぜ自分にこんな苦悩を味わわせたのかという疑問がありました。ナオミの考えでは、全能者が彼女の人生を苦しいものにし、から手で帰し、苦悩を与え、災いをもたらしたのです。しかし、物語はそこで終わりではありません。

さてナオミには、夫エリメレクの一族で、非常に裕福なひとりの親戚があって、その名をボアズといった。モアブの女ルツはナオミに言った、「どうぞ、わたしを畑に行かせてください。だれか親切な人が見当るならば、わたしはその方のあとについて落ち穂を拾います。」 ナオミが彼女に「娘よ、行きなさい」と言った… [3]

2人がベツレヘムに着いたのは、大麦の刈り入れが始まった頃で、それは3月下旬から4月初旬のあたりです。レビ記では、以下のように、農作物の収穫の際、その一部を貧しい人々のために残すことが命じられています。

「あなたがたの地の実のりを刈り入れるときは、畑のすみずみまで刈りつくしてはならない。またあなたの刈入れの落ち穂を拾ってはならない。あなたのぶどう畑の実を取りつくしてはならない。またあなたのぶどう畑に落ちた実を拾ってはならない。貧しい者と寄留者とのために、これを残しておかなければならない。わたしはあなたがたの神、主である。」 [4]

ルツはナオミに、ベツレヘムにある畑に行って、落ち穂拾いをさせてくれる人がいたら、そうすればいいと言いました。

ルツは行って、刈る人たちのあとに従い、畑で落ち穂を拾ったが、彼女ははからずもエリメレクの一族であるボアズの畑の部分にきた。[5]

ボアズはベツレヘムの有力者で、エリメレクと同じ一族の人でした。「立派な人」と呼ばれています。[6]

その時ボアズは、ベツレヘムからきて、刈る者どもに言った、「主があなたがたと共におられますように。」 彼らは答えた、「主があなたを祝福されますように。」 ボアズは刈る人たちを監督しているしもべに言った、「これはだれの娘ですか。」 刈る人たちを監督しているしもべは答えた、「あれはモアブの女で、モアブの地からナオミと一緒に帰ってきたのですが、彼女は『どうぞ、わたしに、刈る人たちのあとについて、束のあいだで、落ち穂を拾い集めさせてください』と言いました。そして彼女は朝早くきて、今まで働いて、少しのあいだも休みませんでした。」 [7]

ボアズは刈る者たちに挨拶をしてから、監督をしている召使いと話をしています。ルツがどんな人かを知りたくて、彼女について尋ねました。自分の労働者たちや、畑で落ち穂を拾う人たちのことを知っていたので、ルツを見て、新しい人が来たと分かったのでしょう。監督をしている召使いは、ルツについて知っていることをボアズに話しました。彼女の勤労意欲にも触れ、早朝から働いて、ほとんど休みもしなかったと話しています。落ち穂を拾わせてほしいと丁寧に尋ねてきたし、勤労意欲も高かったので、監督者は感銘を受けたようです。

ボアズはルツに言った、「娘よ、お聞きなさい。ほかの畑に穂を拾いに行ってはいけません。またここを去ってはなりません。わたしのところで働く女たちを離れないで、ここにいなさい。人々が刈りとっている畑に目をとめて、そのあとについて行きなさい。わたしは若者たちに命じて、あなたのじゃまをしないようにと、言っておいたではありませんか。あなたがかわく時には水がめのところへ行って、若者たちのくんだのを飲みなさい。」 [8]

監督者からいい報告を受けたボアズは、直接ルツと話をしました。「(私の)娘よ」と呼びかけたのは、彼女がそれだけ自分よりも若かったからでしょう。また、今は自分の保護下にあるということを表しているのかもしれません。ボアズのところで働く女たちのそばで落ち穂を拾っていいことになったのです。

彼女は地に伏して拝し、彼に言った、「どうしてあなたは、わたしのような外国人を顧みて、親切にしてくださるのですか。」 ボアズは答えて彼女に言った、「あなたの夫が死んでこのかた、あなたがしゅうとめにつくしたこと、また自分の父母と生れた国を離れて、かつて知らなかった民のところにきたことは皆わたしに聞えました。どうぞ、主があなたのしたことに報いられるように。どうぞ、イスラエルの神、主、すなわちあなたがその翼の下に身を寄せようとしてきた主からじゅうぶんの報いを得られるように。」 [9]

ルツはボアズの優しい言葉にびっくりして、彼の前で地面にひれ伏し、モアブ人である自分に、どうしてそれほど親切にしてくれるのかと尋ねました。ボアズは、彼女が自分の両親や生まれ故郷を離れてやって来たことや、義母のナオミだけではなく、イスラエルの神にも身を捧げたことを知っていると説明しました。そして、神が彼女の犠牲に報いてくださるように、また、彼女が神の翼の下に留まるにしたがい、十分に報いを与えてくださるよう、祈りました。

彼女は言った、「わが主よ、まことにありがとうございます。わたしはあなたのはしためのひとりにも及ばないのに、あなたはこんなにわたしを慰め、はしためにねんごろに語られました。」 [10]

ルツは、ボアズが言ってくれたことや、外国人である自分への接し方に、深く心を打たれました。彼の優しい言葉が彼女に慰めを与え、それが彼女を安心させたのです。

食事の時、ボアズは彼女に言った、「ここへきて、パンを食べ、あなたの食べる物を酢に浸しなさい。」 彼女が刈る人々のかたわらにすわったので、ボアズは焼麦を彼女に与えた。彼女は飽きるほど食べて残した。[11]

働いている人たちが食事をする時間になると、ボアズは、一緒に座るようルツを誘って、パンを勧めました。そして、おそらく固いパンを柔らかくして食べやすくするためのソースのようなものだと思われますが、ワインビネガーにパンを浸すよう言いました。ルツは食べ切れなかったので、あとの方に書かれているように、残りをナオミにあげるため、家に持ち帰りました。

そして彼女がまた穂を拾おうと立ちあがったとき、ボアズは若者たちに命じて言った、「彼女には束の間でも穂を拾わせなさい。とがめてはならない。また彼女のために束からわざと抜き落しておいて拾わせなさい。しかってはならない。」 [12]

ルツがまた穂を拾いに行くと、ボアズは刈る人たちに、積極的に彼女を助けるように言いました。すでに集められ、束ねられているものの中から穂を抜き出し、それを彼女が拾い集められるよう、通る場所に落としておくといったことです。また、彼女を辱めたり、恥ずかしい気持ちにさせたり、惨めな思いをさせたりしないようにと指示しました。

こうして彼女は夕暮まで畑で落ち穂を拾った。そして拾った穂を打つと、大麦は一エパほどあった。彼女はそれを携えて町にはいり、しゅうとめにその拾ったものを見せ、かつ食べ飽きて、残して持ちかえったものを取り出して与えた。[13]

それからルツは、夕暮れ時まで休まず働き続け、集めた穂を打って脱穀しました。その日の作業の結果は、大麦1エパ(約22リットル)となりましたが、これは、ルツとナオミが数週間食べ続けられる量です。

しゅうとめは彼女に言った、「あなたは、きょう、どこで穂を拾いましたか。どこで働きましたか。あなたをそのように顧みてくださったかたに、どうか祝福があるように。」 そこで彼女は自分がだれの所で働いたかを、しゅうとめに告げて、「わたしが、きょう働いたのはボアズという名の人の所です」と言った。ナオミは嫁に言った、「生きている者をも、死んだ者をも、顧みて、いつくしみを賜わる主が、どうぞその人を祝福されますように。」 ナオミはまた彼女に言った、「その人はわたしたちの縁者で、最も近い親戚[買い戻しの権利のある親類(新改訳)]のひとりです。」 [14]

ナオミは、ルツがどうやってそんなにも多くの穂を拾えたのか、詳しく知りたがりました。何と言っても、数週間分の食糧を持ち帰ったのですから。ルツが詳しく説明し、ボアズのことも伝えると、ナオミは主がボアズを祝福されるようにと言いました。そして、慈しみ深い主を賛美しています。ナオミはそれまで、主がもはや自分や家族を気にかけておられないように感じていたのですが、今は、ボアズの優しさを通して、神が彼女やルツに慈しみを示されたことに気づいたのです。

ボアズは、彼女らにとって、買い戻しの権利のある親類の1人です。買い戻しの権利のある親類とは、売りに出された(あるいは、売りに出されそうな)土地を買い戻して、それが一家の手から失われることを防ぐ責任を持つ近親者のことです。[15] やがて、その人は貧しい親族の面倒を見る責任も負うべきであると考えられるようになりました。

モアブの女ルツは言った、「その人はまたわたしに『あなたはわたしのところの刈入れが全部終るまで、わたしのしもべたちのそばについていなさい』と言いました。」 ナオミは嫁ルツに言った、「娘よ、その人のところで働く女たちと一緒に出かけるのはけっこうです。そうすればほかの畑で人にいじめられるのを免れるでしょう。」 それで彼女はボアズのところで働く女たちのそばについていて穂を拾い、大麦刈と小麦刈の終るまでそうした。こうして彼女はしゅうとめと一緒に暮した。[16]

ナオミはルツに、ボアズのところで働く人たちと一緒に出かけることの益を語りました。そこの若い女性たちと一緒にいれば安全であると。そうすれば、他の場所で落ち穂を拾って、いじめられるようなこともありません。ルツは、大麦と小麦の収穫が終わるまで、そこで落ち穂拾いを続けました。それは、およそ3ヶ月の間です。

(続く)


注:

聖書の言葉は、特に明記されていない場合、日本聖書協会の口語訳聖書から引用されています。


1 ルツ 1:16–18.

2 ルツ 1:19–22.

3 ルツ 2:1–2.

4 レビ 19:9–10.

5 ルツ 2:3.

6 ルツ 2:1.〈英語ESV訳聖書〉

7 ルツ 2:4–7.

8 ルツ 2:8–9.

9 ルツ 2:10–12.

10 ルツ 2:13.

11 ルツ 2:14.

12 ルツ 2:15–16.

13 ルツ 2:17–18.

14 ルツ 2:19–20. 口語訳で「最も近い親戚」と訳された言葉は、他の和訳聖書では「買い戻しの権利のある親類」(新改訳)、「私たちの家を絶やさないようにする責任のある者」(聖書協会共同訳)、「わたしたちの贖い手」(フランシスコ会訳)などと訳されています。

15 参照:レビ 25:25. (こちらも参照:申命記25:5–10)

16 ルツ 2:21–23.