イエス、その生涯とメッセージ:人の子の来臨(パート2)

3月 16, 2021

著者:ピーター・アムステルダム

[Jesus—His Life and Message: The Coming of the Son of Man (Part 2)]

March 16, 2021

前回の記事は、イエスが言われた「天地は滅びるであろう。しかしわたしの言葉は滅びることがない」 [1] という言葉で終わりました。イエスは続けてこう言っておられます。

「その日、その時は、だれも知らない。天の御使たちも、また子も知らない、ただ父だけが知っておられる。」 [2]

イエスはこのように、パルーシア、つまりご自身の再臨が起きる時はいつなのかは、父以外の誰も知らないと明言されました。歴史を通じて、イエスがいつ戻ってこられるかについて、数多くの「予言」がなされてきましたが、そのいずれも実現していません。父以外の誰も知らないとイエスが明言されたのですから、それもそのはずです。

イエスは父と同じく神であるのに、天地が滅びるその日、その時を知らなかったのはなぜだろうと不思議に思う人がいることでしょう。これは三位一体の内側での働きであって、私たちの理解の及ばないことです。ESV訳聖書の注釈には、次のようにあります。

イエスがどのようにして、限られた知識を持ちながら同時にすべてのことを知っておられたのかは、私たちには理解しがたいことであり、謎に包まれています。神でありつつ人間であった人は、他に誰もいないのですから。一つの可能性を言えば、イエスは通常、人間としての知識に基づいて生活していたけれど、どんなことであれ無限の知識の中からいつでも思い起こすことができたのかもしれません。

このパラドックス[一見、矛盾しているようであっても、実は真理を言い表しているもの]のもう一つの例ですが、ヨハネによる福音書でイエスは、「わたしと父とは一つである」 [3] と語り、また「父はわたしよりも偉大な方」 [4] とも言っておられます。

「人の子の現れるのも、ちょうどノアの時のようであろう。すなわち、洪水の出る前、ノアが箱舟にはいる日まで、人々は食い、飲み、めとり、とつぎなどしていた。そして洪水が襲ってきて、いっさいのものをさらって行くまで、彼らは気がつかなかった。人の子の現れるのも、そのようであろう。」 [5]

イエスの再臨は予告なく突然に起こるため、その時に生きている人たちは、ちょうどノアの時のように、日常的な普段通りのことをして日々を過ごしているのです。

「そのとき、ふたりの者が畑にいると、ひとりは取り去られ、ひとりは取り残されるであろう。ふたりの女がうすをひいていると、ひとりは取り去られ、ひとりは残されるであろう。」 [6]

イエスの再臨の時に人々がこのように日常生活を送り、仕事をしている例があげられていますが、それは前もって用意していることの重要性を示しています。どちらの例でも、人々は2つに分けられ、離されています。イエスの再臨は、このような分離をもたらすのです。キリストを信じる選択をした人は永遠にキリストと共にいるようになりますが、キリストを拒絶し、神なしで生きるという意識的な決断をした人はその選択が尊重され、その結果、永久に神から離れることになります。

「だから、目をさましていなさい。いつの日にあなたがたの主がこられるのか、あなたがたには、わからないからである。」 [7]

イエスは、ご自身が戻ってこられるのは確実なので、それがいつ起こってもいいように用意しておくよう、信者たちに求めておられます。もし人々が、イエスの戻ってこられるのがいつであるのか正確に知っていたなら、再臨の少し前になるまで用意し始めないかもしれません。しかし、いつになるのかが分からないため、常に用意した状態で生きなくてはいけないのです。

「このことをわきまえているがよい。家の主人は、盗賊がいつごろ来るかわかっているなら、目をさましていて、自分の家に押し入ることを許さないであろう。」 [8]

再臨が思いがけずに起きることを分かりやすく説明するため、イエスはこのたとえを用いられました。自分の家がいつ盗みに入られるのかを知っていたなら、間違いなくそれに備えておくことでしょう。しかし、キリストの再臨がいつになるのかは分かりません。この点は、新約聖書のいくつもの箇所に書かれています。

あなたがた自身がよく知っているとおり、主の日は盗人が夜くるように来る。[9]

しかし兄弟たちよ。あなたがたは暗やみの中にいない[その日が突然来ることを知っていて、そのために用意している]のだから、その日が、盗人のようにあなたがたを不意に襲うことはないであろう。[10]

しかし、主の日は盗人のように襲って来る。その日には、天は大音響をたてて消え去り、天体は焼けてくずれ、地とその上に造り出されたものも、みな焼きつくされるであろう。[11]

「見よ、わたしは盗人のように来る。裸のままで歩かないように、また、裸の恥を見られないように、目をさまし着物を身に着けている者は、さいわいである。」 [12]

イエスの説明に戻ります。

「だから、あなたがたも用意をしていなさい。思いがけない時に人の子が来るからである。」 [13]

弟子たちは、キリストがいつ戻られるのかを知らないけれど、それが思いがけない時に起こることは知っていたので、常に用意した状態でいるよう指示されました。弟子たちに対するイエスの指示は、今日の信者全員にも等しく当てはまります。私たちも彼らと同様、イエスがいつ戻られるのか知らないのですから。

続けて、イエスはこう言われました。

「主人がその家の僕たちの上に立てて、時に応じて食物をそなえさせる忠実な思慮深い僕は、いったい、だれであろう。主人が帰ってきたとき、そのようにつとめているのを見られる僕は、さいわいである。よく言っておくが、主人は彼を立てて自分の全財産を管理させるであろう。」 [14]

イエスは話の焦点を、常に用意しておくべきだという点から、忠実な思慮深い僕に移されました。ここで話しておられるのは、僕を多数抱えた家のことです。僕の一人が、家の主人によって責任ある地位につけられました。数ある責任の一つが、食事をそなえることです。この僕は勤勉に仕事をしています。主人がいつ戻ってくるのかは知らないけれど、それは彼にとって大切なことではありません。ただ自分の仕事を忠実に行うことに専念しているのです。主人が帰ってきた時、この僕は祝福されます。

イエスの使われた「よく言っておくが」という表現は、これから話すことは重要だということを強調するものです。「主人は彼を立てて自分の全財産を管理させるであろう。」 主人はこの僕に自分の全財産を管理させるという形で、彼に報いました。忠実な僕への報いとは、より重大な責任のある地位において主人に仕える機会だったのです。

「もしそれが悪い僕であって、自分の主人は帰りがおそいと心の中で思い、その僕仲間をたたきはじめ、また酒飲み仲間と一緒に食べたり飲んだりしているなら…」 [15]

イエスが言われたように、先ほどとは異なる結果になる可能性もあります。今度は「悪い僕」という仮定上の例をあげておられますが、この僕には最初の僕のような道徳的な強さがありません。主人がいないので、しばらくは誰にも釈明する必要はないと分かっており、自分勝手に無責任な行動をしても構わないと考えています。彼の本性が現されたわけです。彼は一時的に与えられた権限を用いて、僕仲間を叩き始めます。また、酒飲みたちと飲んだり食べたりして、勝手気ままな暮らしをするのです。

「その僕の主人は思いがけない日、気がつかない時に帰ってきて、彼を厳罰に処し、偽善者たちと同じ目にあわせるであろう。彼はそこで泣き叫んだり、歯がみをしたりするであろう。」 [16]

この悪い僕は、自分が監督者の立場にあるのは一時的なものだという事実を見失っています。主人が思いがけない時に帰ってきて、僕は自分のしたことの責任を問われます。僕が考えていたよりも長い間、主人が家を離れていたからといって、主人が二度と戻らないということではないのです。人の子の戻られるのも遅くなっているように感じるかも知れませんが、だからといって、二度と戻らないというわけではありません。この章の前の方でイエスが言われたように、「あなたがたも用意をしていなさい。思いがけない時に人の子が来るからである。」 [17]

イエスはこの悪い僕がどんな結末を迎えるかを予言されました。つまり、主人から厳罰に処されるということです。偽善者たちと同じ目に合わせるというのがどういう意味なのかは、あまりはっきりしていません。ある人は、このように書いています。

おそらく私たちが覚えておくべきなのは、この福音書の随所で、偽善者たちが厳しく非難されていることでしょう。イエスは、彼らが最終的に迎える結末がかなり不幸なものとなることを、疑いの余地もないほど明確にされたのです。[18]

「そこで泣き叫んだり、歯がみをしたりする」 と書かれています。「歯がみ(歯ぎしり)をする」は、マタイの福音書に何度も登場する言い回しであり、[19] 神との関係によって救われることなく死にゆく人の痛み、嘆き、苦悩、苦しみを表しています。

イエスは明確に、パルーシア、つまりご自身の戻られる時はいつなのか、父以外の誰も知らないと言われました。イエスが昇天されて以来、信者たちは再臨の時をずっと待っています。この2千年間、多くのクリスチャンが人生を生き、そしてこの世を去って、主の元へと行きました。イエスが戻ってこられる時、地上に生きている者たちが再臨を経験することになります。そして、第1テサロニケには、すでにこの世を去った人たちがイエスと一緒に戻ってくると書かれています。

私たちはイエスが死んで復活されたことを信じています。それならば、神はまたそのように、イエスにあって眠った人々をイエスといっしょに連れて来られるはずです。[20]

携挙の際にイエスが再臨されることは私たちの信仰の重要な部分ですが、私たちより先に世を去ったクリスチャンたちと同様、私たちもまた、それが起きる時には地上にいないかもしれません。ですから、終りの時の出来事は大切なことではあるけれど、地上にいる間に私たちがどのような生き方をするかということの方が大切です。私たちは、他の人たちを愛し、福音を伝え、最善を尽くしてイエスの教えに生きるよう召されています。私たち全員が、私たちのために命をささげてくださった方と共に永遠に生きることができるよう、その手本に従うべく励むことができますように。


注:

聖書の言葉は、特に明記されていない場合、日本聖書協会の口語訳聖書から引用されています。


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1 マタイ 24:35.

2 マタイ 24:36.

3 ヨハネ 10:30.

4 ヨハネ 14:28.〈新共同訳〉

5 マタイ 24:37–39.

6 マタイ 24:40–41.

7 マタイ 24:42.

8 マタイ 24:43.

9 1テサロニケ 5:2.

10 1テサロニケ 5:4.

11 2ペテロ 3:10.

12 黙示 16:15.

13 マタイ 24:44.

14 マタイ 24:45–47.

15 マタイ 24:48–49.

16 マタイ 24:50–51.

17 マタイ 24:44.

18 Morris, The Gospel According to Matthew, 618.

19 参照:マタイ 8:12, 13:42, 13:50, 22:13, 24:51, 25:30.

20 1テサロニケ 4:14.〈新改訳第三版〉