イエス、その生涯とメッセージ:ヨハネ14章:わたしは父のもとに行く
6月 29, 2021
著者:ピーター・アムステルダム
イエス、その生涯とメッセージ:ヨハネ14章:わたしは父のもとに行く
[Jesus—His Life and Message: John 14: I Go to the Father]
June 29, 2021
イスカリオテのユダが夕食の場を去ってから、イエスは弟子たちに話をしておられましたが、ヨハネ14章のこの最後の部分でも、まだそれは続いています。イエスが話している言葉はご自身のものではなく、イエスをつかわされた父の言葉だと弟子たちに告げてから、次のように話を続けられました。
「これらのことは、あなたがたと一緒にいた時、すでに語ったことである。」 [1]
弟子たちと一緒にいる時間が終わりに近づいているので、イエスはできる内に彼らに話そうとしておられます。弟子たちへの最後の教えは、この福音書の次の3つの章に続いていきます。[2]
「しかし、助け主、すなわち、父がわたしの名によってつかわされる聖霊は、あなたがたにすべてのことを教え、またわたしが話しておいたことを、ことごとく思い起させるであろう。」 [3]
それからイエスは、父が弟子たちに送ってくださる聖霊について話し始められました。ギリシャ語の「パラクレートス」は、本記事で使用する英訳聖書(ESV、他にNAUやNASも同様)では「Helper(助け主)」と訳され、他の英訳聖書では「Comforter(慰め主)」(KJV)、「Counselor(忠告者、弁護者)」(NIVやCSB)、「Advocate(弁護者)」(NLT)と訳されています。[訳注:日本語訳聖書では、主に「助け主」か「弁護者」と訳されています。]
この章の前の方で「真理の御霊」[4] と呼ばれていた助け主が、ここでは「聖霊」と呼ばれています。聖霊は父が子の名によってつかわされるのだと、イエスは言われましたが、それは、聖霊が父や子と密接に関係していることを示しています。聖霊がつかわされるのは、父と子の両方によります。聖霊が父から「つかわされる(送られる)」のは、イエスと同様ですが、聖霊の場合はイエスの名によってつかわされるとあり、それは、イエスがお願いしたからという意味です。
「わたしは父にお願いしよう。そうすれば、父は別に助け主を送って、いつまでもあなたがたと共におらせて下さるであろう。それは真理の御霊である。」 [5]
御霊は教会の案内者であり、教師であって、イエスが弟子たちに教えておいたことを、彼らに思い起こさせてくださいます。弟子たちは、イエスの教えの重要性を常に理解していたわけではないし、一緒にいた間にイエスが言われたことの中には忘れてしまったこともあるでしょう。しかし、聖霊が彼らに、イエスが話してあったことをことごとく思い起こさせ、それに注意を向けさせてくださると、イエスは言われました。
「わたしは平安をあなたがたに残して行く。わたしの平安をあなたがたに与える。わたしが与えるのは、世が与えるようなものとは異なる。あなたがたは心を騒がせるな、またおじけるな。」 [6]
イエスが与える平安は、これまで話してきた、聖霊が信者の内におられることによってもたらされます。ここでイエスが話しておられる平安は、弟子たちに与えようとしておられる特別の贈り物のことです。
ヘブル語では、誰かと会ったり、別れたりする時の挨拶として、「平安」という言葉がよく使われます。[7] しかし、ここでは、そのような意味でこの言葉が使われているのではありません。イエスは彼らに平安を与えると言われた上で、その平安は世が与える平安とは異なると宣言されました。イエスが与える平安は、周囲の状況次第のものではなく、内なる平安です。イエスが与えるのは、そのような内なる平安なので、彼らに心を騒がせたり、恐れたりするなと言うことができたのです。
「『わたしは去って行くが、またあなたがたのところに帰って来る』と、わたしが言ったのを、あなたがたは聞いている。もしわたしを愛しているなら、わたしが父のもとに行くのを喜んでくれるであろう。父がわたしより大きいかたであるからである。」 [8]
イエスはこの章の初めの方(3節)でも、ご自分は去って行くけれど、また帰って来ることを話しておられます。そしてここでは、去って行かれる時のことが話の焦点となっています。もし弟子たちが本当にイエスを愛しているなら、イエスが父のもとに戻られるのを喜ぶだろうということです。
イエスが父のもとに戻られるのは、喜ばしいことですが、弟子たちにとっては、もはやイエスが一緒にいてくださらないということなので、そのことを思うと悲しくなったことでしょう。 「父がわたしより大きいかたである」 というイエスの発言に戸惑う人もいることでしょう。三位一体とは、父と子と聖霊が等しく神であることだとされているのですから。しかしこの場合、「父がわたしより大きいかたである」 というのは、イエスの本質のことを話しているのではなく、その時は人間として服従することを要する受肉した状態にあったということです。
「今わたしは、そのことが起らない先にあなたがたに語った。それは、事が起った時にあなたがたが信じるためである。」 [9]
イエスが語られたことは、将来それが起こった時に、弟子たちにより大きな影響を与えます。イエスが予告されたことを思い出して、彼らの信仰は増すこととなります。イエスの言葉が現実のものとなるので、イエスに対する信頼と信仰が増して行くのです。
「わたしはもはや、あなたがたに、多くを語るまい。この世の君[支配者]が来るからである。だが、彼はわたしに対して、なんの力もない。しかし、わたしが父を愛していることを世が知るように、わたしは父がお命じになったとおりのことを行うのである。立て。さあ、ここから出かけて行こう。」 [10]
イエスは、サタンが来るので、もはや弟子たちに多くを語るまいと言われました。ユダと兵士たちがイエスを捕らえに来ようとしており、イエスは彼らの中に「悪しき者」が来るところを見られたのです。しかし、サタンはイエスに対して、何の力もありません。サタンが人々に対して力を持っているのは、人々の罪の結果であり、イエスには罪がなかったからです。
イエスは父がお命じになった通りのことを行うのだと言われました。それはイエスの生涯を通して言えたことですが、おそらくこの文脈では、おもにもうすぐ迎えようとしている十字架刑と死についてだったでしょう。イエスはまもなく、父に命じられたことに従って、命を捨てようとされており、そうすることで、イエスが父を愛しておられることを世に示すようになるのです。
イエスはそれから弟子たちに、出かけるので立ち上がるよう言われました。ここにそう書かれているのは不自然であると感じる解説者たちがいます。なぜなら、イエスは次の3つの章で、引き続き弟子たちに語り、教えを与えておられるので、おそらくまだ部屋の中にいて、そうしているのではないかと思えるからです。また、イエスは弟子たちとゲツセマネの園まで歩きながら、彼らに教え続けておられるのだろうとする解説者たちもいます。そのどちらかは知りえませんが、それは重要ではありません。この福音書の著者がこの順番に出来事を並べたのには理由があったと思われるし、そのおかげで、私たちはイエスが十字架で死なれる前の最後の教えを記したこの美しい話の恩恵にあずかれたのです。
注:
聖書の言葉は、特に明記されていない場合、日本聖書協会の口語訳聖書から引用されています。
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